一度つくったものを壊すのは簡単だが、元通りにつくることはむずかしい。
地方をながめていると、よくぞこの建物を遺してくれたと拍手を送りたいものがある。
奈良県宇陀市榛原比布の旧伊那佐郵便局もそのひとつだ。
旧伊那佐郵便局は1934(昭和9)年築。木造瓦葺き2階建て(80平方メートル)。
昭和初期の農村での郵便事業の様子を伝える建物で、現在は1階が飲食店、
2階が雑貨店、事務室になっている。
銀行は柱がエンタシスになっていたり、シャンデリアがぶら下がっていたり、
どこか重々しさがただよう風格、威厳が感じられるものが多いのに対して、
郵便局はもっと庶民的で、ちょっとハガキでも出しに行ってみっか的な親しみがある。
旧伊那佐郵便局も外観といい内装といい、実にフレンドリーで心がなごんでくる。
旧道沿いに位置し、当時はたくさんの商店や役場、診療所、駐在所などが並んでいた。
まわりがさびしくなっていく中で、なんとか郵便局の建物を修復にこぎつけた。
中に入るとシェフが毎日入れ替わるレストランがあり、愛情たっぷりのランチがいただける。
地元食材を使ったものからマレーシア料理、イタリアン、和食など、
日によってどんな料理に出会えるか楽しみだ。
かつては封書やはがきなどに村の人々の思いが綴られ、ここから全国へと届けられた。
逆に村外の人たちからの思いも郵便局を通して村人へと手わたされた。
そうした、ほっこりとした思いをずっと大切にしていくかのように、
レトロな建物からあたたかい心づかいが伝わってくる。
http://www.inasayuto.com/index.html
伊那佐郵人(いなさゆうと)